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「人という石は人でしか磨かれない」~キューバ放浪記・トリニダー~


やはり鬱だと気分にムラがあって、やる気が満ち溢れる時もあれば何もせず泥のように眠りたい時もある。

一時間の中で、一日の中で、一週間の中でとそれらは繰り返される。普通の人だってそうだと思うけれど、楽器のエフェクターの1つである「フランジャー」をかけたように心はうねる。

まぁ元から頭に着たり腑に落ちない事があると顔や言動にすぐ出てしまうのだが。

旅では本当に多種多様な人に出会う。

興味をそそる人もいれば顔も見たくない相手も出てくる。

仕事や社会的義務を離れて旅をしているのだが、人間関係だけはどこに行っても付きまとうものだ。

トリニダーでは日本人や韓国人のバックパッカーが集まる宿に泊まっていた。トリニダーはハバナからもそれなりに近く、観光客にも人気の馬車の多い古い街だ。

その宿には時期的に大学生の卒業旅行でやってくる若者も多かった。

色んな人にその宿でも出会った。

僕と同い年で世界中を旅しているご夫婦や、宿の主人に教えてもらったサルサのステップを嬉々として踏む女子大生。

歳が同じという大きな共通項の存在は大きく、一気に「他人」から「友人」になった気がするし、サルサの女子大生の方は今という瞬間を目一杯楽しんでる姿に好感が持てた。

けれども困ったやつにも出会った。

ある日の夜、大学生と思わしき男と女が宿にやってきた。

スペイン語の離せない彼らと日本語を話せない宿の主人の間に入って通訳する羽目になった。

2人は予約をしていたのだかいなかったのかは忘れたが、彼らが到着した頃にはベッドはすべて埋まっていた。

近所の宿を紹介するから、と言う事を宿の主人は彼らに伝えてくれという。僕はその通りに彼らに伝えた。

女の子の方はすぐに納得してくれたが男は不満げだった。

話を聞けば2人はハバナからのタクシーをシェアしたに過ぎず、カップルでもなく夫婦でもないただの他人同士だった。

「この床でいいから寝かせてくれ。」、と男は強気に物申してきた。

宿の主人は困ったようにこう言った。

「それは無理だから近所の宿へ案内するから。」

男はその後何度もしつこく食い下がるも、無理なものは無理だと宿の主人も譲らなかった。

結局その2人は近所の宿へと移動した。

女の子は丁寧に「ありがとうございました。」といったが、男はただただ不満な面持ちで無言のまま去っていった。

嫌な野郎に出会ってしまったなぁ、とイラっと来てしまい僕は煙草を吸いにベランダへ向かった。

一服入れて気が晴れたと思いきや翌日もっと嫌な思いをする羽目になってしまった。

一晩別の宿に泊まっていた男が翌日戻ってきた。彼はチェックインを済ませると同年代らしき旅人と街へ行き、うんと安いクッキーを見つけたんだと言った。

彼らはそのクッキーを大量に買い込む為のレジ袋を求めて宿に帰ってきたのだった。

それを英語やら日本語やらで宿の主人に話している。

彼らが何を言いたいのか理解できない宿の主人は、ちょうどその場に居合わせた僕に彼らが何を言いたいのかを尋ねてきた。袋の件を主人に伝えると、「なんでそんなものが必要なのか?」と言った表情を浮かべながらキッチンからビニール袋を持ってきた。

クッキーなんてバスの乗り場や町の売店、どこでも買えるのになんでそんなに大量に必要なのか?といった具合だ。

彼らは袋を手にすると一目散に街へ出て行った。

そう、「ありがとう。」の一言もなしに。

イライラが頂点に達し、「ありがとうの一言もねぇのかよ。」と、誰に言うわけでもなく独り叫んだ気がする。

前日と同じようにベランダに出て煙草を気を落ち着かせようとすると、同い年の夫婦の旦那さんがやってきた。

「あれはないよね。俺もなんかいい気しないんだよな、あいつ。」

僕の様子を見て心配したのか、すっと僕の方へやってきた彼の優しさを感じた瞬間だった。一緒に馬車や人が行きかうトリニダーの街を眺めながら煙草をふかしていると、長年の友人がそこに居るような気になった。

僕はオーストラリアで一緒に旅をした友人の言葉を思い出した。

「人という石は人でしか磨かれんけんね。」

小僧相手にカッと来てしまった自分が恥ずかしくなってきた。 まだまだ自分は磨かれていないのか、と。

川や海で転がる石や熟成されたラム酒の味のように年月を経て人も丸くなるはずなのに。

フランジャーじゃなくてリバーブかけた、銭湯で響く歌声のようにゆるい心でありたいもんだ。


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